確率0%の仕事を成功させる方法

組織で仕事を進めるうえで、組織内の壁にぶち当たったことはありませんか?
壁を破るためには、精神論ではなく、戦略が必要です。
今日は、弊社福士CEOが、自分の成功体験をもとに、そのヒントをお伝えします。

確率0%の仕事を成功させる
’7分割戦略’

タイに赴任していた時、当時の主力3工場は、C―重油を燃料とするボイラー設備を稼働させて、工場で使用する熱源としていました。ところが、タイで石油は取れませんので、C―重油は輸入に頼っていました。また、自家発電も行っておらず、工場の原燃料エネルギー費は上がる一方でした。3工場のⅭ―重油をほかの原燃料に転換し、でてきた余分な水蒸気を発電に回せば、原燃料、エネルギーコストが年間100億円も節約できることがわかり、数年かけて、3工場の原燃料をC-重油から天然ガス、バイオマス、石炭にそれぞれ転換し、最終的にはすべて水蒸気の余力を用いての発電である「コジェネレーション」を導入しました。目論見通り年間、100億円をこえるコストメリットを享受できました。

石炭への転換は、環境意識の高い社内の人間はほぼ100%反対でしたし、タイ国でも、石炭をもちいた発電は、過去におおきな環境問題を起こしており、反対者もすくなからずおりました。普通に提案しても、成功確率0%の状況でした。
しかしながら、3工場のうち、1工場だけは、どうしても天然ガスやバイオマスは入手できない状況で、石炭ボイラー、コジェネレーションしか選択肢はありませんでした。C-重油から石炭へ原燃料転換すると、当時で年間20億円ものコスト削減がでると試算され、設備投資額はそれ以下でしたので、一年回収できると判断されました。この工場での生産品目はいわゆるバルク系のすでにコモディティー化したアミノ酸事業で、直近では、利益がでるかどうかの工場運営を余儀なくされていました。事業継続自体が危うい状況でした。そんな状況下でしたので、
“―何がなんでも、この「石炭への原燃料転換と、コジェネレーション導入」を成功させねばならない。”と私の心に決断のスイッチが入りました。賛同者はゼロからのスタートです。
今から、考えても、本当に勇気ある決断でしたし。よくやれたとおもいます。環境懸念から、石炭への反対・反発プレッシャーは、当時から大変高く、2023年の今は味の素グループ全体でも「石炭使用はしない」ポリシーが出来上がっています。長年活躍した石炭ボイラーですが、今は、いわゆる混合燃料型のボイラーに転換され、木材チップを主原料にしたバイオマスによる「ゼロエミッション型」になっています。このことは、勿論、最初から計算済みでした、
しかしながら、社内外含めて、100%反対者ばかりで、うかつに動こうものなら、すくなくとも、社内的に完全否定される事が見えていました。そこで、編み出したのが、“7分割戦略”です。難しい問題に直面したとき、その後も私の行動、思考基準になっていますが、0%からスタートして100%の成功に至る、ルートをデザインして、全体を7分割します。それぞれの7つのステージで、成功する要件を定めて、一つ、一つを全力で取り組んでゆく方法です。特にゼロから最初のステージをクリアするまでは、エネルギーの90%を使い、必ず成功させるように考え抜いてから行動します。最初で失敗すると、それこそあとがありません。

石炭への転換は、技術的なプロジェクトではありますが、その意思決定は、勿論人間であり、技術そのものを理解しない方もいれば、政治的にしか動かない方もいるので、KEYポイントは、7分割したときに、それぞれのステージで、説得する、議論する相手の特性をよく踏まえて、十分な説得材料、複数のシナリオを用意して臨む事でしす。やってみて、分かった事ですが、やはり最初のステージで成功する事が非常に大切でした。最初のステージは、全体の1/7で、15%の成功に相当します。これを意思決定者10人がいると仮定すると、1.5人に相当するわけで、この成功により意思決定者10人の中に、ちょっとした「さざ波」がおこるのです。
次の第2ステップを成功させると、10人のうち、3人が同意した事になりますので、さざ波が、‘かしましい’状況になります。この状況になると、少し、自信がでてきます。なぜならば、次の第三ステップを成功させると、ほぼ半数の45%、10人のうち、4―5人が、賛成する事になるからです。私は、第二ステップの成功を成功0%のプロジェクトを成功させる‘TIP’POINT‘(変換点)だと思っています。10人中、3人が同意して、逆に、味方になり、いろいろ自発的に動きだすわけですから、こんなに心強い事はありません。女三人寄れば、、、と言いますが三人よればかしましくなるのは、どうやら女性だけではないようです。
第三ステージを超えると、ほぼ成功です。その後は、雪崩をうったように、賛同者が増えてゆきます。それが、この‘7分割戦略’の妙味です。
但し、この石炭の話は、これでは終わりませんでした。最終ステップと、最終ステップ以降の番外編が残っていたのです。最終ステップは、経営会議の企画担当役員兼取締役に日本の東京本社までよばれ、“すべて自分の責任でやれ、ついては、自分の責任でやることを今宣言しなさい、すべてテープに録音しておくので”という事でした。当方は、勿論、ゼロからのスタートであり、これまですべて自分ともう一人のエンジニアのパートナーでやってきたので、喜んで、宣言しますので、録音してくださいと申し上げました。その後、案件は、経営会議と取締役会への附議を経て承認されたのです。私は、これで、すべてうまくいったと考えていました。
ところが、最後に落とし穴がありました。この工場の所属するタイの地域の政治家に反対され、住民を巻き込んだ反対のデモンストレーションをおこされ、建設工事がSTOPして、東京に危機管理委員会までできてしまったのです。この政治家の説得は実に、3か月にも及びました。到底、私の力では解決できず、私は正直、これで、味の素(株) における、自分の将来は消えるかもしれないとおもいました。私が起案者であり、説得者であり、責任はすべて自分でとると、テープに録音までしたのですから。
さて、3か月後、もう全ておしまいかと思われた事、この政治家との問題は、意外にも簡単な事で解決しました。地元に’体育館‘を寄付する事で解決したのです。問題の本質は、石炭ボイラー導入による環境の悪化懸念ではなかったのです。この工場を管轄する政治家と、工場およびタイ味の素幹部とのコミュニケーションが普段から悪く、面子を重んじる政治家の反発を食らったのだと考えられます。
結局、石炭ボイラー、コジェネレーションが完工した暁には、環境対策として世界の先進技術をいれていたので、タイ国内で、大変有名な見学コースになりました。政治家も住民にも大変よろこばれました。
このプロジェクトで、反省があるとすれば、‘7分割戦略’に、最初から、地域への影響や政治家への配慮、丁寧な説明をいれていなかった事です。それが、3か月の反対運動と、工事STOPを引き起こし、東京に危機管理委員会が立ち上がり、自分の会社での将来をもうばいかねない状況にまで、自らを追い込んでしまう事になったのです。しかし、この貴重な経験は、その後の自分の意思決定、決定に大きなポジティブ効果をもたらしてくれました。難題が降りかかっても、自分には‘7分割戦略’があると思えましたし、実際に、すべての局面で有効でした。現在は、生きた経験として、この‘7分割戦略’は、いろいろな機会でお話させていただいております。

CEO 福士博司

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